校長日誌

5月16日(木)進取の気風No.39 「不正の代償」

 曇り後晴れ最高気温26度。昨夜から降り始めた雨は早朝まで続き、不動岡生が登校する時間帯もぽつぽつと降っていました。天気が定まらず気温差もあるので体調管理には十分に気をつけてもらいたいと思います。

 昨日のニュースで知りましたが、本日の朝刊でも話題になっている事件があります。それは、早稲田大学の入試で眼鏡型端末を使って問題を撮影し外部に流出させていた事件です。埼玉新聞の記事によると「スマートグラス」という端末は眼鏡のように装着して外部と映像や音声のやり取りができ、両手が自由に使える点から医療や農業などの多様な業種の現場で活用されているそうです。本来ならば、人のために開発された技術なのに、こうして悪用されるのは大変残念なことです。試験中に問題用紙をスマートグラスで撮影して手元のスマートフォンに転送、それをSNSで外部に入出させ、お金と引き換えに複数の人物から解答を送信してもらっていたようです。解答を送った一人はこれが最初は不正に使われているとは知らなかったようですが、後になって不正だと気づき警察に通報して発覚されたとのことです。結果的にはこの受験生は合格していなかったのですが、偽計業務妨害容疑で書類送検されました。皆さんの記憶にも新しいと思いますが、2022年1月の大学入試共通テストで世界史Bの問題の画像を流出させた受験生がいました。同年、一橋大学の入試でも同様の手口で受験生は有罪判決を受けました。今回の事件を起こした元受験生は「共通テストの結果が悪く、志望の国立大学に落ちた。他の大学も落ちることが不安で不正を思いついた」という趣旨の供述をしていると記事にあります。

 これから大学受験をする不動岡生はこの元受験生の供述をどのように捉えたでしょうか。新聞には都内の私立高校3年生だったということですが、想像してみると、私立高校に通いスマートグラスを購入できるくらいなので家庭は経済的に余裕がある、共通テストで国立大学を狙っていた、また早稲田大学を受験したということから都内の進学校に在籍していた生徒ではないでしょうか。おそらく私立の進学校に合格するため、小学校か中学校で塾にも通い、成績も良い方で、保護者や周囲の期待も大きかったに違いありません。本人には難関大学に合格しなければならないという他人にはわからないプレッシャーがあったのかもしれません。普段は成績が良かったのに、受験直前で成績が伸び悩んでいたのかも知れません。本人にとっては已むに已まれぬ事情があったのかも知れません。しかし、今回は早稲田大学受験で計画的に不正をするために準備をしていたはずですが、その時に絶対にばれないという自信があったのでしょうか。おそらく進学校に在籍して勉強もできていたはずなのにばれたらどうなるのか、カンニングして合格した大学に合格して本当にうれしい気持ちになれるのか、そんなことを想像できなかったのでしょうか。今日の読売新聞の編集手帳では「澄む」と「濁る」の言葉遊びの話で始まっています。「ためになる人」「だめになる人」のように「た」に濁点をつけて「だ」にすると大きく意味が変わります。「スマートグラス」は本来は人の「ためになる」便利な道具を、自分を「だめにする」のに使用した例だろうと書いています。そして、合格していなかった上に「事件の容疑者になるのであれば、これほど愚かなことない。たとえ合格しても不正がばれなかったとしても、どんな心持ちでその後の生活を歩むのか。澄むと濁るの違いを、多くの受験生に長い人生を想像しながら考えてもらいたい」と綴っています。もし志望校に行けなかったら、滑り止めだった大学で学科でトップになるくらい頑張ってみれば良い、どうしても志望校に行きたかったら浪人という選択肢だってある、それなのに今回の事件はあまりにも代償が大きいものです。進学校の校長として、日本の教育はこんなことで良いのだろうかと考えさせられました。